loud songs
□日焼け止め
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「あちー」
まだ梅雨だというのに気温はぐんぐん上がって、湿度100パーセント、不快指数も100パーセント。
だから日本の夏って嫌やねん、なんでこんなジメッとすんの。
あ〜なんかもやもやする…やらなあかんこといっぱいあるんやけどなぁ…夕方スタジオ入るまで、多分俺このソファーから動けへん気ぃする。
ぴぽぱっぴぽぱっ
来客を告げるインターフォン。やけに楽しげな音とはうらはらに、ダラダラと画面を覗く。…と、そこには。
長身の彼はカメラに近すぎて、口角の上がった独特の唇と伸び放題のひげから下しか映っていなかった。
「どぉぞ〜」
ってかけんちゃん、合い鍵持ってるやろ。なんてツッコミをいれながらも、先程の不快感はどこへやら、つい表情が緩んでしまっている。
時計に目をやると、まだ13時すぎ。けんちゃん今日なんもないんかな?
玄関の方から物音がして、リビングのドアが開く。
「けんちゃん参上〜!…ってはいど?もしかして起きたばっかやった??」
生地の薄いタンクトップに細身の綿パン、サングラスという出で立ちで、けんちゃんは車のキーを置きながら俺にそんなことを言ってきた。たしかに寝てた時のまんまのかっこやけど。
「いや、ちょっと前から起きてるで。それよりどうしたん?急に」
「別にどうもしぃひん。何となくはいどに会いたかってん。」
柔らかく微笑みながらそんなことを言う彼に、胸の奥がむず痒いような、くすぐったいような、変な気持ちにさせられた。
「なぁはいど、お出かけしようや!」
…はい?
「お出かけっていくつやねん自分」
「うわっ冷たいわぁ〜はいちゃん。」
「泣きまねやめぃ」
あぁ、不思議だなぁ。けんちゃんの一言が、俺をこのソファーから立ち上がらせる。
カーテンを閉めていたので雨どう?と尋ねると、上がったで〜、とのこと。それなら。
「ん?はいどなにしてん??」
ラックから取り出したのは、先日買ってきた日焼け止め。
腕にのばして丁寧に塗り広げる。動作が単調なので、途中からなんだか飽きてきたが(けんちゃんがうつったかな)、顔にもぬらなきゃな…
「ちょっ…はいどなにしてんって!!」
「え?日焼け止めぬってるだけやん」
「ストーーーップ!」
なんで…?今の俺は、顔に日焼け止めをちょっと垂らした状態。
「んっ…」
突然、目の前にアップのけんちゃん。のっけから舌まで入って、なんだか…このまま始まっちゃいそうな。え?出かけへんの??
「けん…ちゃん?」
多分俺、今ものすごい瞬きしてる。
「反則やろ…」
なにが??日焼け止めぬってただけやん。
「頬っぺたに白い液垂らして…顔射みたいやん。あかんわぁ〜たってもうた笑」
「なっ…」
「はいど、しよっ」
けんちゃん語尾にハートついてんで…
長く綺麗なその指で、薄く淫靡なその唇で。雨は上がったけれど、お出かけの話はまた今度。
愛し合う二人を、カーテン越しに、虹が笑った。
end