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□ある日の出来事
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【ある日の出来事】




「棗、今日は棗を俺にくれないかな?」
「は…?」

突如、部屋を訪ねてきた親友兼、恋人の乃木流架の言葉に、棗は言葉を失った。
それはそうだろう。
部屋に来て物の五分も経たないうちに、そんな話になったのだ。
これを、言葉を失わせずに何をしろというのか。

「いや、あのね。別にムリにって訳じゃないんだけどさ」
「はぁ」
「棗のことを抱きたいなぁ、って気分になって」
「どういう、気分だよ、それは」

棗は少し恥ずかしそうに頬を赤らめると、眉を潜めた。

「ねぇ、だめかな?」
「だ、だめっつーか…」
「棗も、気持ち良いの好きだろ?」

耳元でそっと囁かれて、棗はかぁ、と顔を更に真っ赤にさせる。
そうやって、人の弱いところを付いてくるのは、流架の悪い癖だ。
棗はそっと目を逸らした。

(いやだって言っても、どうせ訊かないんだろ)

それが判ってるから、棗は溜め息をつくほかない。

「…流架の、好きにしろよ」

諦めてそう打診すれば、嬉しそうに笑う彼。
そんな彼を見て、満足してしまう自分の甘さ加減に自分自身呆れながらも、嫌になれないのが惚れた弱み。

「棗、大好き」

抱きつかれて、悪い気も起こらなければ、優しいキスに心が満たされる。

(俺も、甘い、な)
「俺も、だ」

そっと返して、キスをして、二人雪崩れ込むようにソファに倒れこんだ。
いつもならベッドで、と言う所だけれど、今日は別のシチュエーション。
勿論、流架のご希望だ。

「ッ」

服を剥がれ、胸の突起を触られて、ぴくんと、身体が反応した。
何度も執拗に胸の敏感な所を弄られて、体が痙攣する。

「棗、ほんとに胸弱いね」
「うっさ…っ」

反論も出来ないほどに、少し触れられただけで感じてしまう。
でも、それは、流架だからだ。
他の人間と何てしたこともないけれど、流架だからこそ、こんなに身体が熱くなる。

「可愛い」
「んっ」

耳たぶに甘噛みされて、棗は小さく声を漏らした。
耳元に、低く響いてくる流架の声に、感じてしまう。
いつもの天使のような高い声と、笑顔から、誰も今の彼を想像はできないだろう。

(腹黒いし)

実は結構執念深くて、嫉妬深いなんて、自分以外の人間は知らないだろう。
見事に皆騙されている。
けれど、棗の前だけは、流架は取り繕わない。
素の自分を見せてくれる。
それは、嬉しくも有り、少し厄介でもある。
ちょっとしたことだけで、よく勘違いはされるし、犯されるし。
時折、喧嘩したくなる事もあるくらい腹立たしい時もあるけれど、やっぱり嫌いになれない。

流架が好き。








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