SHORT

□アゲハチョウ
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「あ、アゲハチョウ」
「え?」
少女の呟きに、少年は振り返った。
「ほら、ルーちゃん、お兄ちゃん!アゲハチョウ」
少女は、兄と少年を呼びとめ空を指差した。
「きれー…私もいつか、ちょうちょになりたいなぁ」
少女がそう言うと、間髪いれずに兄から突込みとも何とも言えない冷たい言葉が返ってきた。
「はッ、バカじゃねーのか…人間が蝶になれるわけねーだろ」
「わかってるもん〜」
少女は、ぷくりと頬を膨らませた。
それを見て、少年はクスリと笑ってしまう。
「…なに笑ってんだよ?」
「そうだよ〜、ルーちゃん?」
「ううん、なんでもないよ、ははっ//」
口ではなんでも無いと言いながら、口元はついつい緩んでしまう。
「流架、なんだよ?」
「なんでもないってば//」
少年は、くすくす笑いながら夕焼けの綺麗な道を先に進んでいった。





「ん…」
朝日のくすぐる日差しに起こされて、流架は眼を覚ました。
「夢……、か…」
ふぁぁ、と一つ欠伸をして流架はベッドから身を起こした。
着替えを済ませて、いつものように彼を迎えに行く。
「棗、いる?」
コンコン、とドアを叩いていつものように声を掛ける。
しばらくして、ガチャリとドアが開き、中から彼が出てきた。
「おはよ」
「…はよ、流架」
短い挨拶。
だけど、それだけでもいい。
ちゃんと、元気でいてくれる。
それが、流架にとって一番嬉しいコトだった。
「…なんか、いいことでもあったのか?」
「え?」
流架は、驚いて棗のほうを見た。
「なんで?」
流架の問いに棗は、口を閉ざした。
「…いや」
何故かと聞かれれば、困ってしまう。
なんとなく、そう思ったとしか言い様がない。






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