SHORT

□スキナキモチ
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「流架…今の…」
「ごめん」


言葉が、出てこない。
思うように、動かない。


停止する、思考。

ごめんなさい…
棗の中の、俺の位置を壊して


でも。
本当に、好きなんだ。

好きだったんだ。


扉に手をかける俺に、また、棗の声が降る。

「待てよっ…!」


「…」

手が、足が止まる。


笑える。
まだ、どこかで期待してる自分が居るんだ。

なんて、浅ましい…


「今の…本当、なのか……?」

どうしよう。
何も言えない。


ううん。
今、もし…


冗談だって、言ったら、
まだ、平気……?


期待する。
俺は、馬鹿だ。



「うん。」


嘘もつけないほど、
好きだって…判ってる癖に。


「…いつ、から………」
「…自覚したのは、此処に来てから」


なに、言ってるんだろ。
俺…

どうして、聞くんだろ。
棗…


「そんな…前から…」


嘘つき。
なら、まだ可愛い罵り、かな…?

なんて、
自嘲する。


俺に…

棗の、手が触れる。

「…!」



いつの間に、
と思うほど、近くにいた棗に、驚いた。


…愛しい。


「流架…俺…」


香しい匂いや、
愛らしい仕種や、

俺の全てを狂わす、存在感

気を抜けば、
いつの間にか、触れようとしてしまう。


「なに……?」
「おまえの事、嫌いじゃねー…」


………棗?

何…?


「お前と、同じ…気持ち、返せるか…わかんねーけど」



お前がいなくなるのは、いやだ。



そう、

言ってくれた棗に、
涙が出そうだった。


スキナキモチ。

忘れなくちゃと思ったんだ。


伝えずに、しまい込んで、
鍵を閉めなくちゃって。


だけど、
その度に、出来ない自分に歯痒くて。
呪った…



思っても、
思っても。


伝わらないし、
受け入れられないと、思ってたから…



「…いい、の…?」
「…流架……?」


このまま、棗を好きで、
このまま、棗の傍にいて、


「いいの………?」




涙が出た。


溢れ出す、優しさに。
強さに。


俺を、受け入れてくれる、君に。


ぎゅっと、抱きしめて、
強く握り締めた。


棗の温かさが、染みる。


「…馬鹿、流架……」


耳元で聞こえた、声が、
じんわり、広がる。



うん。
うん………



ごめんね。
そして、ありがとう。


棗の優しさ、
この上ないほど、嬉しいよ…



抱きしめた、俺に、そっと回る腕。


きっと、
大事にするから。

守って見せるから。



俺を、許してくれる、その心に。




俺は、救われた気さえした。




スキナキモチ、
スキナキモチ………





貴方を選んでよかったと、

今も昔も、

心の内側で、今日も一人、




そっと、囁く…――――――











END
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