SHORT
□恋〜コイ〜
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例えば。
例えば、棗の好きな人と言うのが、時分の知っている人だった場合、自分はどう反応を示したらいいか、わからなくなってしまう。
彼は、とても人気で、好意を寄せる人間は山ほどいる。
その、山ほどいる中の、一人であるならば、自分が判らない可能性は高いが、下手に知っている人物。
そう、例えば…
佐倉のような、女子。
そう思うと、心の奥底が痛くなった。
「どうした。なんか変だぞ、お前」
「…ぇ?」
「体調、悪いんじゃないのか?」
「そ、そんなことないよ」
本当か?と、訊ねながら、手に額を当てられると、一瞬身を引いてしまう。
「…流架?」
「ほ、本当なんでもないんだ」
ごめんね。
と、謝って、その手を握り返した。
暖かさがじんと胸に詰まって、苦しくなった。
いつか、この彼の隣を、誰かに盗られるのかと思うと。
「流架?」
「ごめん、ちょっと…だけ」
向かい合ったまま、手を握って、俯いた。
彼は不思議そうにしたまま、俯いた親友の様子を見ている。
「なにか、あったのか?」
「ううん。違うんだ」
何があったわけでもない。
ただ、いつかを思うと胸が痛くなってしまって。
流架は、ぎゅっと、棗の手を握り締めた。
「…」
どうしたら、この手を離さずに済むものかと。
浅ましくて、欲に塗れた感情が、叫ぶ。
もっと、隣にいたいと。
触れてはならぬ存在に、触れていたい、と。
嘆いてしまうのが、苦しい。
「流架、俺に…言いたくないなら、それでも、いい」
「…なつ、め?」
「でも、少しは、頼れ…」
少し、寂しそうな声。
たった一人の親友に、頼ってもらえないと言う事に、悲しいと、彼は感じているのだろうか。
「ぁ…ごめん」
「お前は、俺に頼れと言うくせに」
「はは、そうだね」
ごめん。
ありがとう。
でも、やっぱり、どうしても、この話題に触れる勇気は未だない。
だって、恐いから。
この、手が。
離れてしまう事が、とても恐いから。
だから、言えないのだ。
「ごめんね、ありがとう、でも…大丈夫だよ」
君の傍にいたい。
まだ、どうしても、棗の傍に居たい。
好き、だと思い続けて居たい。
今のままなら、未だ恋をしていられるから。
このままで、居させて欲しい。
「大丈夫だから」
ごめん。
棗、こんな、俺を赦して欲しいんだ
「大好きだよ」
親友として、
今は未だ貴方に、この「好き」の示し方だけ、示して。
今日も、また…この気持ちを飲み込んで、終わる…―――――
END