SHORT

□恋〜コイ〜
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棗には好きな人が居る。

らしい。


告白をした女子が、そう言って断られたと話していた。



棗に、
好きな人が、いる。


なんて。
考えたこともなかった。

(誰…なんだろう)



ちくり、と痛む、胸の奥。
当たり前だ。


俺は、棗が好きなんだから。




【恋〜コイ〜】




「棗」
「…流架…何してんだよ、こんなとこで」
「それは、こっちの台詞」


北の森、学園に近いどっしりとした木の上に、日向棗は、いた。

「サボり」
「俺も」

彼はにっこりと、笑顔を返す乃木流架の、ひそかな想い人。
学園に来る前からの親友で、今でも一番の仲良し。

でも。
気持ちは、伝えられない関係。

「そっち、行ってもいい…?」
「好きにしろ」

ふっと、目線が合って、流架は一瞬息を呑んだ。
だって、綺麗なんだ。
太陽にキラキラ映える漆黒の髪とか。
ルビーを嵌め込んだような、朱い瞳とか。
端正な、顔立ち。
長い、睫毛。

素敵で、綺麗で。
そんな、棗が誰よりも、好きになっていた。

「どうした…」
「え、あ…ううん。なんでもないんだ」

そう言って、何もなかったと言う風に木に手を掛けた。
未だ細い、その腕で上りゆけば、棗がそっと自分の隣を空けてくれる。
そんな彼の隣に、そっと座った。

「…明日、抜き打ち試験だって。神野先生が言ってた」
「そうか」

そんな他愛もない話をしながら、彼の目線の先を見る。
真っ青な、空に浮かぶ、太陽。
その太陽を見つめながら、彼の目線は和らいでいく。

「…教室、佐倉がまた騒いでたよ」
「馬鹿だからな、あいつは」
「そう、だね」

なんて、言いながら、流架の心は他の事に向く。
棗の、好きな人とは、誰かと言う事に。

(困ったな…)

その話題に、触れたい気もしたが、触れてしまった後を思うと、中々切り出せずにいた。






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