レイニーデイ

□1、ファーストインパクト
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第一印象は、あまり良くないものだった。
どこにでもいる普通のヤツ、とか、あほっぽい顔、とか、鼻持ちならない、とか。
その辺のいずれかであることは、まず間違いなかった。
なにしろ、越した先のアパートが以前にも増してボロボロで不機嫌になった所に、道を挟んだ隣にそびえ建つ、立派過ぎるほど立派な家の子が、笑って話しかけてきたのだ。
大人ですら隠せないだろう僅かな妬みは、まして子供にとっては大きな感情の呼び水となって相手に向かった。
黄色に黄緑のチェック柄のシャツに灰色のジーンズといった、ボーイッシュな格好をした短髪の少女は、玄関先に立ってあからさまに不機嫌な顔をしてる少年に、にっこり笑いかけた。
「わたし、七倉みどり。お母さんに、お隣に越してきた子が同い年だって聞いたから、挨拶にきたの。これから仲良くしようね。そっちは名前、なんていうの?」
秋良の方は、まったく仲良くしたい気分ではなかったのだが、これまでの経験からキンジョヅキアイは始めが肝心だと分かっていたので、しぶしぶ答えた。
「俺は秋良高馬。それほど仲良うする気もないんやけど、お隣さんやったらしゃーないし、ま、そこんとこテキトーによろしゅうしたってや」
ことさら「テキトー」の部分を強調させて言い放つと、相手は、含ませた微妙な棘に気付いたのか、笑顔を曇らせた。
「うん…でもテキトーにするぐらいだったら、初めからよろしくなんてしない方がいいと思う」
それだけ言って、彼女はボロアパートを後にした。
秋良は、遠ざかっていく少女の背中を見送ることなく部屋に引き返す。
「けっ。気にくわんやっちゃ…」
なにより、少女の生意気そうな捨て台詞に、少し呆気に取られてしまった自分が気にくわない。

ものの一分もかからない、これが秋良高馬と七倉みどりの、最初の出会いだった。


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