レイニーデイ

□4、アイデンティティー
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問題児に絡まれた日から数日後、秋良は非常事態に陥っていた。

手袋が、なくなったのだ。

絶対になくしてはならず、絶対に手放してはならないものだった。
秋良はまた問題児たちに絡まれたときのために、しばらく手袋をつけないようにしていた。
しかし、冬の木枯らしが身に染みるこの時期、食料もままならないような生活を送っている秋良が、他に防寒具を買い求められるはずもなかった。
かといって、父親を当てに出来ないのは分かりきったことだ。
仕方なく、その日は手袋を身に付けて登校したのだが、体育を終えて教室に戻り、着替えていると、ジャンパーのポケットに突っ込んでいた手袋がなくなっているのに気付いた。
秋良は探し回り、クラスの全員に知らないかと聞きまわった。
終いには先生にまで訴え出たが、手袋はついに見つからなかった。
クラスメイトらは、そんな秋良の様子をもの珍しげに見ていた。
いつも冷めている秋良が、手袋でそれほど取り乱すと思わなかったのだろう。
だが、遠巻きに眺めるだけで、手伝おうとはしない。
みどりも、そんな秋良をじっと見ているだけだった。
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