レイニーデイ

□5、ファースト・コンタクト
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雨の別れから、二人の仲が良くなるようなことはなかった。

しかし、なにかしらの接点のようなものは、以前より多くなっていた。
少なくとも秋良はそんな気がしていた。

例えば、秋良家の食生活を心配したみどりの母が、みどりに料理を届けさせたり、回覧板をみどりが届けに来るようになったり。

その事実があるだけで、そこから何かが芽生えたわけではない。
だがそれが続くと、秋良は割と嫌悪感を抱かずにみどりの来訪を受け入れるようになった。

いつしか、みどりは秋良を「秋良」と呼ぶようになった。
くん付けされるのが気持ち悪いと言ったら、遠慮ナシに呼び捨てにしてきたのだ。

二人は、顔を合わせると大概ケンカ別れで終ったが、彼らがその交流の中で得るものは多少なりあった。
互いのやり方を否定しながらも、それを徐々にではあるが受け入れ始めていた。
多分、それが最初の一歩だった。

「おい、それどないした」

聞くまい聞くまい、と思っていた秋良だが、ついに好奇心が理性を上回った。
いつものように回覧板を届けに来たみどりが、玄関先で大きな目を見開く。
「なにが」
みどりは、心底不思議だとでも言いたげに秋良を見てきた。

さもあろう、普段、秋良は意図してみどりを気にしないようにしている。
それが突然、こんな風に態度を変えてくれば、驚きで目をむくのも道理というものだ。

そんなみどりに、一瞬で珍獣になったかのような扱いを受け、秋良は憮然として回覧板をひったくる。
慣れないことはするもんじゃないと後悔したが、どういうわけか後には引けなかった。
それは、目をまん丸にした間抜け面に似合わない、口元のせいだ。
「口の端んとこ。切れて、血出てんで」
そっぽを向いて秋良が言うと、みどりは素早く反応して口元を抑えた。
それは、動じることが多くない秋良をたじろがせるほど、とても俊敏な動作だった。
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