咎狗の血
□目前甘味
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「アキラー、やってみたいのあった?」
ケイスケはパラパラとめくりながらアキラに問う
「どれも同じに見えてきた……」
アキラも隣りで同じようにパラパラしていたが疲れたのか、あまりページに目を通さずに、めくっていた
二人が持っているのは無料の求人誌
他にも数冊脇に置いてある
この夏、工場は拡張工事のため1ヵ月間、休業することになった
アキラとケイスケが勤め始めた頃、工場はとても小規模なものだった
しかし、ここ数年でそれなりに提携先も増え、工員の人数もそれに比例した結果、今回の拡張工事が決定したのである
その間、大部分の従業員は工場長に斡旋してもらった他工場で仕事をすることになっている
なかには、夏休みよろしく、遊んだり、故郷に里帰りしたりと休みをエンジョイする少数派の従業員もいる
アキラとケイスケは、どちらかといえば少数派だった。
といっても勿論休んでいるわけにはいかない。
ケイスケの提案で二人はこの機会に工場以外の場所で働いてみることにしたのだ
探すは夏の短期バイトだ
「あ!アキラ、これはどう?夏季限定のアイスクリーム屋さん!」
「…それ、男ふたりでやるバイトなのか……?」
「…あ、そっか…こういうのは女の子がやるものなのかなぁ…」
求人はたくさんある。
が、時給、交通、内容などを視野に入れて考えると、なかなかすぐには決まらなかった
こうなってくるとアキラは、やっぱり斡旋してもらった工場で働いた方が良かったんじゃないか、と思ったりもした。
「車の免許があれば宅配ドライバーとかできるのにね」
「――――……………………ドライバー…?」
ケイスケは自分の失態に飛び上がった。
そして下手すぎる軌道修正を図った。
「ほ、ほら!引っ越し屋さんとか、格好いいかなー…な、なんて思って…さ!!…そ、そうだなぁ〜あとは…あとは、、…あ」
ケイスケの指が止まった。アキラは指の先を追った。
そこには
『アミューズメントパーク☆スタッフ大募集中!!』の文字とともに、ウォータースライダーの写真が載っていた。
「…アキラ、これ、やろうよ」
ケイスケが真剣な眼差しで言った。
アイスクリーム屋よりは自分に合っているとは思ったが、アキラは同意しかねた。
「…場所が遠い」
…というのは建前でアキラはケイスケが突然、真剣になったことで、その裏に『なにか企みがあるのではないか』と思ったのだ。
そしてそのアキラの考えは正しかった
ケイスケの頭の中では、アキラと閉鎖後のプールでイチャコラする妄想が繰り広げられていた
「場所はいいじゃん!1ヵ月間だけなんだし少しぐらい遠くてもさ、ねね、アキラ〜、これにしよ?ここが良いと思うよ??」
「嫌だ」
アキラは、ばっさりと言い放った。
「な、なんでっ?!」
「なんか嫌なにおいがするから」
「――…え?」
ケイスケは鈍感なアキラが感付いたことに驚いた。…アキラが成長したのか、自分があからさますぎたのか――…って!そんな事はどーでも良いっ!!
軌道修正!
「や…、やだナァ、アキラァ!お、…俺はただ夏らしいバイトがやりたいナァと思っただけで〜…」
「じゃあ夏季限定のアイスクリーム屋でもいいだろ」
「そ、それはそうだけど〜、」
「なら、決定な」
アキラはケイスケの陰謀を粉砕すべく、早速、受話器を取って電話をかけ始めた。
アイスクリーム屋は先程言ったように男二人を雇ってくれるのかが疑問だったが、ケイスケの企みに乗るよりはマシだった。
ケイスケはガックリとうなだれた。
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