今日からマ王*dream

□今日からわたし…
1ページ/1ページ


「ゆうちゃーん、起きなさーい!
んもう、遅刻するわよー。」

渋谷家の朝。リビングには母、美子。

「じゃ、俺はそろそろ行ってくるよ。」

父、勝馬。

「紫乃ー!パパいってくるからねー。」

「うん、パパ、いってらっしゃい。」

そして長女、紫乃。

「んー、今日もかわいいなー紫乃ー。
気をつけて学校行くんだぞー?知らない人に声かけられても、
ついて行っちゃ駄目だからなー?」

ぎゅう。

「あう・・パパ、苦しいよ・・。」

「ああ、ごめんごめん、つい。」

抱きしめた小さな娘にこれでもかと頬ずりしていた勝馬は、愛娘の
苦しそうな声に我に返る。
それでも人のよさそうな笑顔はふにゃりと緩んだままだ。

「勝ち馬くん、いってらっしゃい。
ねえね、紫乃ちゃん。お願いなんだけど、ゆうちゃん起こしてきてくれないかしら?
ママ、今手が離せないのよー。」

そう言われて時計を見ると、すでに7:30を指している。

「わっ!やばい、俺行ってくるわ、遅刻遅刻!」

ばたばたと慌ただしく玄関へと駆けていく父を、小さく手を振って見送った後、
紫乃は二階へと上がる。




コンコン


「ゆうちゃーん、入るよー。」

そおっと顔を覗かせてみると、案の定ぐっすり眠っている双子の兄、有利。

「ゆうちゃん、起きてー。」

ゆさゆさ。

「・・ん、んんー・・?あー、もう、もうちょっと寝かせてくれよヴォルフラム・・」

「ぼ・・?
うーん、なんだかよくわからないけど、ゆうちゃーん、起きて。
今日から海でバイトでしょー?もう私は準備できちゃったよー?」

世間はすでに夏休み。
今年は有利が海でアルバイトをすると言うので、紫乃も一緒にバイトすることにした。
初めてのアルバイト。
有利のお友達も一緒だと聞いていたから、約束の時間に遅刻するわけにはいかない。

「・・んもう。しょうがないなぁゆうちゃんは・・。

こうなったら・・えい!」

ばふ!

「ぐあっ!な、なんだなんだ?!紫乃?!」

「やっと起きたねゆうちゃん。おはよー。」

そう言ってやわらかい笑顔を向ける可愛い妹。
ふんわりいいにおいがして、すべすべのお肌を寄せられると気持ちいい。
なにより、すぐそばで聞こえるこの鈴を転がしたような声は同年代のきゃいきゃい
した女の子たちと違って、なんとも耳に心地いい。
紫乃はちっさいから上に乗っかってても軽いなー、なんて考えた所でふと我に返る。

「あれ、もう朝?今何時・・・

て、ええーーーーー!!もうこんな時間!!
村田来ちゃうじゃん!!」

紫乃を首にぶら下げたままがばっと跳ね起きる。

「何度もママが起こしてたんだよ?でもゆうちゃん全然起きないから。」

「やばい!!急いで着替えなきゃ!!ほら紫乃、離れて!!」

「きゃう。」

ころん。

「おあー!!まだ荷造りも出来てないんだった、もー!!」

鬼のようなスピードで着替えていく有利。
昨日は野球の練習で、帰るなり疲れて眠ってしまった。
しばらくバイトで練習できないと思って張り切りすぎたか。

「それなら昨日ママと一緒に詰めておいてあげたよ。
ゆうちゃん、野球の練習で疲れてるみたいだったから。」

「え、まじで!サンキュー紫乃、助かったよ!」

「えへへ、良かった。」


ピーンポーン―


「ゆうちゃーん!村田君来てくれたわよー!!」


「うっわ、待って待ってーー!!」






こうして慌ただしく始まったバイト初日。


「うーん。海はいいねぇー。」

「そうだね、健ちゃん。」


バイトの休憩時間。

初対面のはずの村田と紫乃であったが、すでにとても親しそうである。


「明るい太陽、青い海、向こうには水着のお姉さん、
隣にはこぉーんな可愛い女の子がいて。
これぞ夏ってかんじだよね〜。」


なぜか突然金髪・サングラスで現れた村田。

「お前、なんで突然金髪なんだ?昨日は普通だっただろ?」

「なーに言ってるんだ渋谷!
海!若者の夏!もっと若くフレッシュにはじけないと!」

「その言い方がすでにおっさんくさいぞ村田・・。」

「ふふふ、健ちゃんっておもしろいね。」

さっき買ってきた缶ジュースにストローを挿しながら紫乃が笑う。

「そうかな?あははは。
しかし紫乃ちゃんてほんと可愛いよねー。渋谷にこんな可愛い妹がいたなんて。」


確かに紫乃は可愛い。

今日はビーチ仕様ということで、いつも下ろしている背中までの長くて柔らかな髪は、
耳の横でゆるく二つに結わえている。
日焼け対策と、体を冷やさないように(もとい、男どもに肌を晒してはならないとする
父と兄からの指令で)水着ではなくキャミソールの上からパーカーを羽織っている。


「水着のお姉さんもいいけど、露出度控えめの清楚系美少女ってのはぐっとくる
ものがあるよねー。」

「村田、おまえ・・。」




「あのー、すいませーん。」

突然女性3人組みに声をかけられた。

「あー、はいはい、なんでしょうかお嬢さん方!」

くるりと向きを変え、嬉しそうに走り寄って行く村田。

「村田…。」







「あのー。
ほんとにここですか?」

水着が流されてしまったという三人に連れられてきたのは小さな崖。

「そうなんです・・あそこ。」

見れば岩の辺りに引っ掛かっている黄色い水着。
少し距離があるがここは遊泳禁止区域である。

「大丈夫です、どーんとまかして下さい!なぁ、渋谷!」

「って、わー!!」

どぼん!

「きゃぁ!ゆうちゃん!」

「頑張れ渋谷ー!」




「結局俺が取りに行くのかよ!」

村田に突き落とされた有利は仕方なく取りに向かう。
泳いでいった先に、例の水着が引っ掛かっているのが見えた。


「よし、とれた!

・・って、」



ええ、お約束。



「ええーーーーーー!嘘だろぉぉぉぉぉぉー!!!」

突然現れた渦の中に飲み込まれていく有利。

「渋谷ー!!!!」

「ゆうちゃん!!!!!」

有利の後を追って飛び込む二人。



かくして、三人の長い夏休みは幕を開けたのだった。



to be continued..
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ