半魔双子の日記

□第15話 平凡なメリー・クリスマス
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ダンテの日記 9 

12月23-24日
星の夜

「バージル、ちゃんと起きてないと落ちるぜ?」
俺は、バイクの後ろを振り返る。

普段、アパートに直帰して速攻で風呂に入り、速攻で歯磨きして2秒で寝るバージルの就寝時間を今夜はとっくにオーバーしている。

ワイン落っことすなよ?」
「当たり前だ」

雀の涙ほどもらったボーナス全部注ぎ込んで、ワイン買った。
去年は、ケーキも七面鳥も買い損ね、二人でケン●ッキーフライドチキンのイブだった。
今年は、バージルが鬼のようにコンビニに予約を入れて、受け取った七面鳥とワイン。ホールケーキだってちゃんと明日届く。
深夜スーパーで付け合わせも準備した。


「日本の冬は、星が綺麗だな」
バージルが行く手の北斗を見ながら寒そうに言う。

オレは運転手だから、見上げられないけど、バージルが見とれてるのを気持ちだけ一緒に。

…あれ?
鼻の奥に何かきた。
つんと。




親父がいて、バージルがいて、庭に大きな木があった。あの時も夜だった。
バージルが、
「お父さん、星がきれい!」
「     」
親父の顔は思い出せるのに、蘇らない声が、バージルに何か言ってる。


ハハ、オレ、もう親父の声忘れてら。
けっこうショックだな。こうやって、いつか、親父の顔も忘れるんだろうか。
「日付が変わったな」
バージルが言って、ちょっとだけ腹につかまった腕に力が入った。

「ダンテ、覚えてるか?」
「何を」
「父さんと母さんは、クリスマスに俺達に何て言ってたか…。俺はもう、思い出せなくてな」

(オレもさ)
「チェッ。親父と仲良く星見てたアンタが覚えてないこと、オレが覚えてるはずはねえだろ!」
「星?」
「二人して大きい木の上を見てさあ。仲良さそうに」
「あっ…」
バージルは、何か思い出したみたいで口をつぐんだ。いいよな、親父の思い出、いっぱいあるだろアンタ。


「お前が転んだ」
「んあ?」
「呼びに来たお前がつまづいて転んで大泣きして、父さんとなだめても泣き止まなかった。
しまいに母さんが呼びに来て一番大きく切ったケーキをあげるって約束して、やっと泣き止んだ」
「バ、バカ言ってんな!
スタイリッシュなダンテ様がつまづいたくらいで大泣きなんてすっかよ!」

思い出したじゃねぇか。なだめてくれる親父の声…それに母さんの胸の匂い。

「今年はケーキを俺が切るからな」
バージルが宣言するように言った。
「大きい方が俺だ」
「何年前のカタキ取るつもりだよ!ガキかアンタは」
「うるさい。いつも俺より甘えおって。久々思い出しても腹の立つ」

アパートが見えた。
「そこの公園を一周しろ、愚弟」
「何で!」
「いいから行け」
「…たく、お偉いお兄様は!」

公園には、町中に珍しく高い木があった。バージルが止まれって言うと思ってたけど、言わなかったから、一周してアパートに戻った。

「あの時みたく木の上に星見えました?お兄様」
「いや、思い出した」
「何を」
「お前がつまづいたのは、俺が昼間結んでおいた枯れ草だった」
「こ………のォ!」

バージルは、バイクの後部座席から荷物を持ったままヒラリと降りた。
「何年前のカタキを取るつもりだ?」
「チェッ」
胸に紙袋やレジ袋を抱えて、珍しく微笑を浮かべたバージルの後ろに、キラキラ輝く北斗が見えた。





鼻の奥の痛みは、いつの間にかなくなってた。
思い出せば辛くなる声や顔は、もう思い出さないことにするさ。
給料少ないけど毎日13時間働いて、食い物を手に入れて、兄弟二人でニホンのウサギゴヤアパートで二度目のクリスマス迎えられたんだ。

バージルが鍵を開けて先に入った後、俺は北斗を見ながらドアを閉めた。




平凡だけどオレは上機嫌で言いたい…いろんなひとに。
「メリー・クリスマス」





(作者より)
来年のクリスマス、双子はもうスロ屋にはいないだろうなあ!

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