半魔双子の日記
□第18話 6番台の手紙
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『6番台の手紙』
ゴールデン・ウィークを前に、1台だけひっそり外された6番台から手紙が来た。
例の、隣の人気漫画の台も一緒に外された。最初の目標3ヶ月はクリアできたんだけどな。
その場所に今は、ブルーハーツが入ってる。オレ達の台を置いといた方が、客づきはよかったみたいだな。
6番台はタフな野郎で、自分だけ皆と離れ離れになるのに、
「ヒーローが冒険の旅に出るみたいだな」
って、笑いやがった。
手紙には、温泉ランドに入ったことや、人気上々で毎日湯上がり美人や子供に囲まれて楽しいと書いてあった。
確かに、スロット専門店とは、客層がかなり違うんだろな。相変わらず明るくてタフだ。それに、ちょっぴりうらやましい。
「空調が効くとはいえ、湿気の多い場所だ」
機械にはよくない、とバージルが悲観的に言った。
「働き場所があんだから、いいんでねーの?」
だろ?
オレ達が作られ、この店に設置されてもうすぐ2年。
ということは、夏休み前の入れ替えが今月中にもあるってことだ。店自体が潰れなきゃな。
「オレ達もよくもったよなぁ」
「誰も、外されるとは言ってない」
話題、アンタから振ったくせによ。
「いいって。もう店でも一番古い機種のいっこになったもん。満足してる」
オレ達は、ドコ行くんだろな。出かかった言葉は飲みこんだ。
廃棄工場の架台に載せられる日は、どの台にだって平等に来る。その話をするのは、できるだけ後でいいさ。
「この仕事が終わったらさ、海行ってみてえなあ。それと世界旅行」
2005年のゲーム発売キャンペーンで、世界を回ったけど、サイン会とレセプションばかしで自由時間はなかった。
「海に行くなら、●ィズニーシーのあるところがいい」
兄貴が恐い顔のまんまいきなり言った。
「ゲッ!ネズミ海好きだったのか」
「ベルヌのファンだ!」
オレ達の会話をベオやアグルド達が期待でキラキラした目で聞いていた。
「せっかくジャパンにいるのだし」
わかったわかった。退職金が出たら、みんなして行きたいとこ行こう。
「開店だぞ。浮かれて武器を間違えるな」
バージルにチクリとやられた。
実は、こないだウッカリ拳銃一丁とリベリオンを持って立っちまってさ。かわいい女性の常連さんに見つかっちまったんだ。
バグってことですんだけど、CA●COM本社に聞かれたら始末書だった。
くわばらくわばら。
オレは、6番台からの手紙をポケットに入れた。
ヤツも頑張ってるから、オレもいっちょ気合入れて仕事して来るわ。
今晩ウチに帰ったら、返事書くつもりだ。
常連のウスハゲオヤジが「6番台〜」ってしくしく泣いて、めちゃめちゃキモかった話と、さっきの兄貴の爆弾発言の話とかをさ(笑)。