ポエム

□『桜』
1ページ/1ページ



桜が咲きはじめましたね。花の下の夢を一話。
詩ではないのですが、他に入れる場所がないので。




    『桜』


バージル:
『人はいざ
心も知らず
ふるさとは
花ぞ昔の
香ににほひける』
…花の香りだけは、変わらんな。

ダンテ:
馬鹿言え、俺達は変わってないさ。ずっと、父さんと母さんと双子のままだ。

バージル:
変わってないか?
魔界に堕ちて、こうして、墓参りに来る時しかお前に会わない俺が。

ダンテ:
変わっているもんか。
アンタは、ずっとバージルさ。

バージル:
お前は、ずいぶん老けたな。
(微かな笑う気配)

ダンテ:
ちぇ。
アンタは、いつまでも若いまんまかよ。

バージル:
(寂しそうな声)
理由はわかっているだろう?

ダンテ:
知らねえよ。
知りたくもねえや。

バージル:
俺が、死んでいることが怖いか?
事実は事実だ。
目を逸らさずに認めろ。


(…来年は、もう形になれないかもしれない、と淡い青い影は言った。)

ダンテ:
いいや、アンタはまたここへ来るんだ。
アンタは、何ひとつ変わってない。
…オレが、アンタを呼んだら、必ずやって来るんだ。青い空に、花の色がこんなに綺麗な春に、アンタはここへ来なくちゃいけないんだ。
いいか!




振り向いた古い墓の傍らに、ただ桜の木だけが爛漫と咲き誇る。
『願わくば
 花の下にて
 春死なむ
 その如月の
 望月の頃』



すきな歌の通りになんか、なれなかったくせに。


(了)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ