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□夏色七色
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『・・・どっこいせッ』







暑い暑い猛暑の日。

太陽が思いっきり元気に顔を出し、空も雲がチラホラとあるが綺麗な青空だ。


窓から外を覗けば、私服を着て鞄を持って学園を出て行く者たち。



今日は夏休みに入ってから3日目。3日目ともなると、大体の者が家に帰って行るだろう。


私はもう少し寮にいてから出ようと思っていたが、まさか今日が猛暑になるとは・・・。




仕方が無い、と私は日焼け止めを塗り頭に帽子をかぶる。






そして、少々の服や日用品などを詰め込んで

寮を出た。










29:風鈴の音、人を彩りし心












「皆!気をつけて帰れよ!」

「浮かれるんじゃながよ!」







昇降口のところには、婆娑羅クラス担任の前田先生と国語担当の島津先生が。

あの二人がいるから猛暑なのか、とおかしいことを考える。



学園を出て行く人たち皆に声をかけ、皆に手を振る。

私は、自分から先生達の元へ近づいた。


ちょっと雑談しても良いかな、と思ったのだ。



すると、前田先生がこちらに気づいてくれる。





「おぉ風舞、お前も今日帰るんだな!」

『相変わらず元気ですね先生たちは・・・。まぁ、今日ぐらいがちょうどいいかな、と思って』

「ん、今日ぐれぇがちょうどいい。あまり暑いと溶けちまうけんな!」

『もう十分暑いんですけど・・・・』





先生達の豪快な笑いに、私もつい苦笑いする。

この二人の周りだけ気温が2度くらい上がっているような気がする。

まぁ・・・そこまではないか。



先生達が見送ってくれるから嬉しい。と少し笑顔を零す。

誰もいない中出て行くのも空しいしね。






「修学旅行、伊達に頼んでおいたのだが・・・聞いたか?」





すると、前田先生が私を見て申し訳なさそうな顔をしているのに気づく。


あ、そういえば終業式が終わった後の帰りに伊達先輩が言っていたっけ。






『聞きましたよ?でも、先生とかが来ないって・・・それってただの旅行じゃないですか』


「すまぬな・・・婆娑羅クラスだけ皆とは違う場所に向かうのだ。

冬や秋に修学旅行に行くわけにもいかんので、伊達に頼んだのだ。

あいつには付き添っている世話係とやらがいるらしいし、ちょうどいいと思ってな!」





元気良さげに言う前田先生だが、ちょっと教師としての自覚があるのかと言いたくなる。

普通は他人の世話係などに頼んだりしないだろう。



と思ったが、あえて伏せておいた。





『まぁ、私は夏休みに予定が出来たので良かったですよ。ありがとうございます』

「礼は伊達に言っておけ。某は何もしておらん」





そう言って、前田先生は苦笑いをした。

私もつられて笑うが、ふと時計が目に入る。
・・・・やば、10時だ。

私は鞄を肩にかけ直しながら、先生たちの横を通り過ぎるように歩いた。






『じゃあ、私はこれで。また2学期会いましょうね!』


「おう!気をつけて帰れよ!」

「夏バテすんじゃながよ!」


『はーい!』





先生達に手を振りながら、私は学園から出た。










++++++++++++++++++++++++++++++









入学式壊れた(壊された)自転車は直る訳もなく、私は30分くらい歩いた。

いつも歩くスピードより速く歩く。


見えてきた、一軒家。







『・・・久しぶりの家だなぁ・・・』







私は、入学前の時から変わらぬ我が家を見てポツリと呟く。


暑い日ざしが、私の家を輝かせているかのように、家が明るい。

そっか、と私は実感した。



家に、帰ってきたのだ。






鍵を鞄から取り出し、鈴の音がチリンチリン・・・と鳴る。

扉の鍵穴にその鍵を差しこみ、ガチャリと音がする。


扉が、開いた。






『うわぁ・・・変わらないな〜』






当たり前のことだが、つい口を開いてしまう。

入学前以来だ。匂いも久しぶり、空き巣に入られた気配もないし、どうやら何も変わっていないようだ。

良かった、とため息をつく。



靴を脱ぎ、家に上がる。

今日は暑いからだろう。少し家の中が暑い。





お仏壇には向かわなかった。この後行く場所があるから、行く必要がない。


私はそそくさとリビングへと向かう。




電気をつけ、近くにあるテレビのコンセントを入れる。

コンセントを入れっぱなしだったら電気代が懸かるので、入学前に抜いといたのだ。


コンセントを入れると、私は近くにあったリモコンを取り、テレビをつける。



静かな部屋に、テレビの音が響いた。













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