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□凍える体を
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某は、佐助たちを置いて海を出た後、すぐにホテルの中に入り、紅殿の部屋に向かった。


砂をはらうことも体を拭くこともせずにホテルの中に入れば、数人の人の視線が刺さる。

そんなこと、気にしてはいられない。




紅殿の部屋の前にたどり着き、扉を叩く。

ドンドンドンッ、と大きな音が廊下に響いた。




「紅殿!紅殿!いるなら開けてくだされ!紅殿!」




返事はない。

少し焦りながら、ドアノブに手をかける。


ガチャ、という音。鍵があいている?



扉を開けて中を確認すれば、彼女の姿はない。
それどころか、入った様子もない。

入ったなら、鍵をかけたはずだ。



つまり、部屋には戻っていないということ。







「一体どこに・・・」

「おい真田!てめぇ、足も体も拭かずに中ウロチョロしてんじゃねぇ!汚れるだろ!!」






後ろから聞こえてきた声。思わず振り向く。

そこにいたのは、政宗殿の側近である片倉殿であった。




「片倉殿!紅殿を知らぬか!?」

「あぁ?紅だぁ?・・・あぁ、アイツのことか・・・。

見かけてねぇな。ここにも戻ってきてねぇ」

「そんな・・・一体どこに・・・」





片倉殿は首を横に振る。

だが、その後急に顔を青ざめた。
某は、その様子に首を傾げるしかなかった。



「何か心当たりでも・・・」

「心当たりというかな・・・。

あの危険な森に入ったわけじゃねぇよな・・・」





危険な森?


そういえば、ホテルの後ろ辺りに木々が沢山あった。

あれが、危険な森だというのか。





「なぜ危険なのでござるか?」

「あの森の奥には絶壁、崖がある。

人が立っただけで崩れるところもあれば、落ちたら一溜まりもない崖もあるんだ。


前から立ち入りは禁止だったが・・・アイツそれを知らねぇんじゃねぇか?」





そんな危険なところに、一人で向かったと言うのか!?

一体何の理由で!?


某の背中に悪寒が走った。



ここでのろのろしている場合ではないと分かると、いつのまにか自分の足は動いていた。






「おい、真田!?」




片倉殿の声は右から左へと抜け、自分は走った。








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走って走って、森中を駆け回った。


何度も何度も、立ち止まっては走り、走っては立ち止まる。

喉が痛い、でも走った。



木々が自分をあざ笑うかのように揺れ、冷たい風が吹き向ける。






その時、見つけた。

崖のふちに立つ、彼女の姿。


後ろに、愛姫殿がいる。


会話をしていることから、彼女は愛姫殿がいることには気づいているようだ。



しかし、愛姫殿が背後に近づいていることには気づいていない。

まさか、愛姫殿、彼女を落とすつもりなのか!?




そう思ったのもつかの間。


愛姫の手が、彼女の背中を押した。

彼女の足が地面から離れ、体が宙に浮く。





気がついたら、某は足を動かし彼女に手を伸ばしていた。

しっかりとつかんだのは良いものの、自分の体も宙に浮く。





あぁ、落ちる。


そう察したときには







彼女の体を自分に引き寄せていた。










32:ボロボロな体、知らない真実
















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