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「お帰りなさいませ、夕月様」

朝陽に燦然と輝く白亜の王城を背に、騎士の一人である黒刀が待っていた。
いつもの光景に夕月はふわりと微笑む。

「ただいま、黒刀」

夕月の散歩という名目の朝の外出は王はもちろん、一部の臣下には知られている。
皇子が共もつけず、早朝から城を抜け出すなど許されることではないはずなのに、何故か黙認されていた。
そして、騎士たちは少し離れた場所で夕月が戻ってくるのを必ず待っていてくれるのだ。
それを申し訳ないと思いつつも、夕月はルカと逢うことを止められなかった。
たったひとつの心の拠り所を失うことが怖かったから。

「それでは城に戻りましょう」

くるりと外套を翻した黒刀の背を追って夕月も歩みを進めた。





* * * * *

早朝の静まり返った城内に感極まった少女の声が響く。

「夕月ちゃん!おかえりっ!心配したよ〜」
「と、十瑚ちゃん」

一国の皇子と言う肩書きに遠慮することなく抱きつけるのは彼女と、ここには居ない彼女の弟ぐらいだろうと黒刀は眉間の皺を深くさせた。
夕月を伴って城に帰った途端、この騒ぎだ。
いい加減、夕月が外出する度に騒ぐのはやめてほしい。
こうして護衛をしている自分の力量を信頼されていないようで黒刀は腹立たしくもあった。

「おい、そろそろ離して差し上げろ。夕月様が困っておられるだろう」
「いーじゃない!無事を喜んでるだけなんだから!ねっ、夕月ちゃん」
「う、うん。心配かけてごめんね」

夕月は戸惑いながらも十瑚の背に腕を回して優しく撫でてやる。
その様子を黒刀は不快そうに見つめた。
主従という立場を重んじているからこそ、皇子に気安く触れる十瑚が許せなかった。

最も、夕月自身が堅苦しい主従関係を望んでいないことは分かっている。
身分など関係なく友達のように接して欲しいと頼まれたのは、黒刀が騎士という称号を背任した時だった。
あれから数年が経つが、いまだに十瑚たちのように気さくには話せず、そればかりか視線を合わせるのさえ気恥ずかしいのだ。

夕月はその余所よそしい態度を気にしているようだが今さらどうすることも出来ず、夕月との距離を埋められないでいた。しばらく黙考していた黒刀の耳にカツカツと慌ただしい足音が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開かれた。

「夕月、おはよう!!」
「天白兄さん、おはようございます」
「今日も可愛いね、私の夕月は」

十瑚の腕から攫うようにして、弟を抱きしめた国王は夕月の頬にキスを贈る。
それをくすぐったそうに受けとめた夕月は兄の腕の中、愛らしく微笑する。
その表情に黒刀の心臓がドキッと一つ大きな音を立てた。
黒刀だけではない、この場にいる全員が夕月の表情に魅了されていた。

「夕月、今日は君に紹介したい人がいるんだ。もうすぐ九十九が連れてくるはずだから支度をしておいで」
「はい。...あのっ、」
「大丈夫、夕月もきっと気に入るよ」



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20101004

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