海馬総受け(旧)

□たとえ、耳を塞いでも
1ページ/10ページ




痛む背中。

疼く傷。



自分は穢れている。







昨夜、瀬人は犯された。

何人にも。


だが、今ここにいる少年はそんなことを微塵も感じさせない。

きっちりとパーティー用のスーツを着込み、凛とした面持ちで立っている。

立ち居振る舞いにそつなど無く、その手の流れは見るものを魅了する。


磯野もそれに取り込まれんとしている一人だった。




彼は瀬人が昨夜、どんな目にあったのか知っている。

それは、自分の手首に付いた引っかき傷が物語っていた。


それは、今朝瀬人を抱き締めた時に瀬人がつけた傷。

無意識か、意識してか。


それも今はシャツの上から隠されている。

ちらり、ちらりと覗くだけ。

だが、目の前の少年は助けを拒んだ。

否、彼を助けることなど出来ないのだ。

そして彼はそれを知っている。

所詮、ちっぽけな自分では何も出来ないのだ。

それでも瀬人は磯野を責める事などしない。


だが、より一層無口になってしまった。


それは、今の磯野にとっては幸いなのか。

彼は今、瀬人にかけるべき言葉を持ち合わせてはいなかった。




瀬人に最後のジャケットを手渡す。

その時に触れた彼の体温は、高かった。




彼の華奢な身体に、あのような薬など、負担を与えこそすれメリットなど一切ありはしない。

だが、瀬人はそれをおくびにも出さず、剛三郎に言われたパーティーに出席する。




時刻は夜の8時。

剛三郎と瀬人は屋敷を後にした。




運転手は磯野が勤めている。

いつもならば磯野は屋敷にて待機である。

だが、なぜか今日は剛三郎が磯野を運転手に指名した。

それも、元々いた運転手をクビにして、だ。


磯野はこのパーティーに不安を持ちながらも運転手を務めた。


自分よりも遥かに幼いこの少年は、自分よりも深い不安に駆られているのだからと、自分に言い聞かせて───







次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ