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□宵月夜
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「何してんだ」

ヅラはビクッと肩を跳ねさせてこちらを見た。

「何だ……銀時か」

ホッとしたように息を吐く。
暗い窓の外をぼんやりと眺めていた姿はまさしく心ここに有らずだったから、急に呼ばれて驚くのもまぁ分かるけど。
――いくらなんでも驚きすぎじゃねーの。

「何だとは何だ」
「いや、すまん。深い意味はなかったんだ」

苦笑いで返してきた。
なーんか変だ。
元気がないっつーか、落ちてるつーか。
けど笑ってる。

「寝れねぇのか?エロい妄想でも止まらなくなったか?」
「お前はつくづく品がない奴だな」
「んなもん色素と一緒に母親の腹ん中に置いてきたわ」

外は気味が悪いくらい静かで、だから下らない冗談がさらに白けて聞こえた。
ヅラは目を伏せた。
それからまた窓の外を見る。

「ふと起きたら、すっかり目が覚めてしまってな。手持ち無沙汰で歩いていたら、良い月が見えたんだ」

どれ、と俺もそちらを見ると、確かにでっかい月が輝いていた。

「おー、すげぇな」
「見事な満月だ」

風情がある、とヅラは少し口角を上げた。

「…………」
「…………」

なんだこの沈黙は。
いい歳した男が2人黙って月を眺めてる光景ってどうなんだ、教えてエロい人。

「…………なぁ、――っ、」

話しかけようとヅラの方に目をやって、――息を飲んだ。

……なんだよ、ちくしょう。
月なんかよりよっぽどこっちの方が綺麗じゃねえか。

「ん?どうした?」
「……いや、何も」
「そうか」

気にとめた様子もないので良しとする。
ヅラは憂い気にため息を吐いた。

「悩んでんのか?」
「悩み……というほどではないな」

長い黒髪が揺れる。

「高杉のことだ」

何の前触れもなく出された名前に、自覚している以上に動揺した自分がいた。

「あいつもこの月を見ているだろうか」
「…………」

その声が酷く虚ろで、儚くて、だから、

「ヅラ」
「ん?――っ!」

不意に仕掛けた軽いキスに、桂はやっぱりすぐ顔を赤くした。

「お前と言うやつは……っ!いきなり何を」
「お前が悪い」

抗議の台詞を遮って顔を寄せる。
もちろんわざと。
思いっきり見つめてやる。

「ここであの野郎の名前を出したお前が悪い」
「……は?」

訳が分からないといった表情をしていても、まだ顔は赤い。
付け入るなら今のうち。

「だからお仕置きな」

囁いてすぐ、今度は触れるだけじゃない、舌が絡まる深く妖艶な口付けを仕掛けた。

誰に指摘されても仕方がない。
みっともないくらいの嫉妬だ。





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*次はあとがきです



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