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□敵対同士で10題
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 2.声を殺して



俺だって人間だ。
性欲ぐらいある。


「ッ……,ん!」

ベッドの上で,交わる。
見上げた先にあるタカノの顔はもうすっかり大人の男で,3年前――まだ子供だった頃のあどけなさは微塵も感じられない。

「……いーんかよ。警察が犯罪者とセックスして」
「お前が罪を犯した証拠がないからな」

あっさり答えやがる。
まぁ,確かに,俺は殺しをした証拠なんか今まで一つも残しちゃいないけどさ。

「お前を捕まえるのは現行犯じゃないと無理だ」
「そーかよ」

せいぜい頑張れ。
タカノは「それにしても驚いた」と俺の髪に触れて言う。

「まさかこんなに早くお前からお誘いが入るなんてな」
「…………」

最悪な再会をした1週間が過ぎた今日,俺はこいつに初めて電話をかけた。
会えないか,と尋ねると,あるホテルまで来いと言われ,今に至る。

「……うっせえ」

でかい手で体を撫でられながら悪態をついた。
すでに息は上がってきている。

「どうせお前も溜まってたんだろ」
「キープなら腐るほどいるから,その心配はない」
「良いご身分だな」
「お前と比べたらな」

――俺は性別を偽ってこの世界を生きている。
ゆえに周りはみな俺を男だと認識しているため,セックスなんてできるわけがない。
セフレなんてもってのほかだ。

「別に良いだろ。俺が選んだ生き方なんだから」

すると,鎖骨に舌を這わせていたタカノの動きが止まった。

「それ,止めろ」
「あ?」
「男言葉」

俺は眼をすがめた。

「そこまでお前に指図されなくちゃいけないいわれはない」

ため息を吐くタカノ。

「雰囲気もくそもないな」
「元々そんなもんねえだろうが」
「男抱いてるみてーなんだよ。お前胸ないし」
「うるせえんだよ!大体いつまで前戯してんだ!入れるなら早くしやがれ!」
「――言ったな」

勝ち誇ったような笑みに,思わず息を飲んだ。

「――――ッ!!」

そしてすぐに感じる圧迫感。

「……はぁ」

一息置いたタカノの吐息が耳にかかる。
無駄な色っぽさにむかつく。

「何……休んでんだ」

早く動け。

挑発的に言うと,やつはまた笑った。

「――――――ッ」

始まった律動に,歯を噛みしめてただ耐える。

「声」
「……ん,だよ」

うかつに口を開けば,変な声が出てしまいそうで怖い。
タカノは動きながら喋る。

「出せよ」

何で命令形なんだよ。

「ぃや,だッ!」
「我慢なんかすんな。気持ちいいんだろ?」

ぶんぶんと首を振って意思表示すると,「強情なやつ」と深い口付けをされた。
舌を吸われ,頭の奧がじんと痺れる。
唇が離れると,またすぐに奥歯を噛み締めた。


これは,俺の唯一の矜持だと言わんばかりに。





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