Log
□甘い菓子
30ページ/48ページ
▽5/2
【きみのいちばん】
自分と同じシャンプーの香りがふわりと漂う。
目の前の彼女は、さっきからずっと鏡越しににこにこと笑いかけてきていた。
「機嫌良いな」
「うんっ」
満面の笑みに見つめられるのに耐えられなくなった俺は、櫛を探すフリをする。
……あぁ、ダメだなぁ。
「ふふー。シャンに髪結って貰うの好きー」
興奮して左右に動き始めた小さな肩を押さえつける。
「ならじっとして」
「えー」
「ディナ」
「はーい」
一度不平を言った唇は、でも嬉しそうに緩んでいた。
俺は明るいブラウンの長い髪をブラッシングする。
さらさらと流れるふわふわのそれを見てただ、綺麗だな、と思う。
「なーに?急に黙っちゃって」
「い、いや、何も」
どもってしまった俺に「変なシャン」と首を傾げて言う。
咳払いで誤魔化す。
「2つ結びでいいよな?」
「うん」
櫛でうまく左右にブロッキングして、片方を仮止めした。
「シャンって2つ結び好きだよね」
「え?」
「だってほとんどそうだもん」
思い返すと、ほんとだ、かなりの頻度で2つ結びだ。
チェックの小さなシュシュで右の髪束を耳の下あたりでくくる。
「簡単だから
?」
「……いや、そういうわけじゃないけど」
俺は答えながら仮止めを外した。
手持ち無沙汰なのか、ディナは足をフラフラさせている。
もう少し太ってもいいんじゃないかって思うくらいには細い脚だ。
「多分だけど」
「ん?」
数回櫛を通して、
「お前の髪質に一番似合う結び方だから、無意識に選んでるんだと思う」
左側の髪束もシュシュでくくる。
「お前の髪、ふわふわしてるから、結わえちゃうともったいない気がすんだよ」
シュシュの高さがそろってるのを確認して、「よし」と頭を撫でる。
くるりとこちらを向いたディナは、花が咲いたような笑顔を見せた。
「ありがと」
「ん」
「可愛い?」
「可愛い」
「えへ」
そのままぎゅむ、と抱きついてきた彼女を抱きしめ返す。
「じゃあせっかく可愛くなったことだし、」
「うん!」
出かけるとしよう。
よかったら拍手をどうぞ...★