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□甘い菓子
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【優しく甘く】
優しく体を揺すられてから,完全に寝ていたことに気付いた。
「……ぅん」
「ほら,起きて起きて」
カーテンは閉じられてる。
それ越しでも分かるくらい,外は暗い。
「まだお日様出てない…」
毛布をぐいっと引き上げると,頭の上で笑う気配がした。
「大分寝ぼけてるね」
「んー?」
「この時間は,お日様じゃなくてお月様が出てくる時間だよ」
「…………!!!」
がばっと体を起き上げる。
なぜか自分はベッドでなくリビングのソファで寝ていた。
壁に掛けられたら時計に目をやると,
「うっわぁ…」
PM11:00
「把握できた?」
「ばっちりね…」
そうだ。
今日は10時に帰ってきて,そのままソファになだれ込んじゃったんだ。
それくらい仕事が切羽詰まってて,疲れも溜まってたってことだろうけど。
「てか,今日何曜日?」
この数日で,時間感覚どころか,曜日や日付感覚も麻痺してきていた。
彼は,少し答えにくそうに,
「水曜,だけど…」
「うっそぉ!」
叫んでから,力なくうなだれる。
今の私は申し訳なさと不甲斐なさでできてます。
「…………ごめんなさい」
「仕方ないよ」
一緒に暮らすようになってからずっと,家事はきちんと分担してやると決まってたのに。
毎週水曜日は,私が晩ご飯を作るって決まってたのに。
「ごめん,ほんとに――」
「いいってば」
まだ何か言おうとする私を黙らすように,彼は静かに私の頭を撫でた。
「こんな遅い時間まで,お疲れ様」
――もう。
こんな時に,そんなに優しくしないでよ。
仕事で疲れてるのも合わさって,なんだか泣きそうになってきた。
「さ,ご飯にしよう。食欲はある?」
「もちろん!」
一瞬だけ熱くなった目頭を,バレないようにこすって立ち上がる。
多分彼は,私がこっそり涙をぬぐっていることも気づいてる。
でも,何も言わない。
そういうとこも,優しい思う。
「どうかした?」
「……甘えてるなぁって思ったの」
温かいシチューを入念に冷ましてから一口含む。
舌を火傷して味が分からなくなったら,作ってくれた彼に失礼だ。
猫舌な彼はまだスプーンで具をいじってる。
「甘えてるのとは違うでしょ」
なんでと尋ねる前に,彼は微笑んだ。
「僕が甘やかしてるだけだよ」
そのあと体が熱くなったのは,彼が続けて言った「大好きだから」のせいじゃなくて,照れ隠しにがっついたシチューのせいだと思う。
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ほらあれだようん。
つまりは好きな子ほど苛めたいとかいうのの逆だよ。
むしろてめーらの存在が甘々だけどなとか言ったら負けなんだからね!
よかったら拍手をどうぞ...★