短編

□My Pokkin Baby
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▽ポッキーの日企画 11/11



「今日ってポッキーの日ですよねー」

なんて誰かの呟きを,帰り際に聞いたからかも知れない。
いつもは滅多に寄らないコンビニで,それを買ったのは。

「珍しいね」

彼女は不思議そうな顔をして微笑んだ。

今晩泊まりにくることは,先週あたりから決まっていたことだ。
以前からそうしないと泊めないと釘を差してあるので,ご両親直筆サイン入りの許可証も確認した。

――これにサインする親は,きっと複雑な気持ちなんだろうなぁ。

俺は彼女の煎れてくれたコーヒーをすすりながら,テーブルにおいてあるぺらいそれを眺めた。

「優木さん,甘いの嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いじゃねぇけど,あんま食わないな」
「じゃあ,なんで?」

無邪気な顔して訊いてくる彼女。

「…………もしかしてお前,俺が自分で食べるために買ってきたと思ってないか?」

彼女は「違うのっ!?」と本気で驚いた。
物凄く馬鹿っぽく見えるぞ,その顔。

「あたしてっきり,今日はポッキーの日だから優木さんも食べたくなったんだとばかり……」「なわけねーだろ」


俺は,たまらずため息を一つ漏らした。
そして,赤い箱を開け,中の小袋の封を切った。
細長いそれを一本つまみ,

「ほら」
「ん」

呆けて開けっぱなしだった彼女の口に突っ込んだ。
彼女はそのままポリポリかじって,全部食べきった。

「…………嬉しいけど,」

むすっとして言う。

「雰囲気が,いや」
「……は?」

だってさ!と憤られてしまった。

「こういうのって,『あーん』とかって言い合ったりして,甘いムードのなかでやるもんじゃないの!?」
「アホかお前」

小娘に素でツッコむ俺も俺だが。
当の彼女はむすっとしたまま一本つまんだ。

「だって餌付けみたいなんだもん」

そのまま小動物のようにかりかり食べきる。

「不味そうに食うな」
「あー美味しいなー」

完璧に棒読みだった。
本当に生意気な小娘だ。

「お前,風呂は?」
「向こうで入ってきた」
「じゃあ,俺も入ってくるわ」

着替えを取りに一度寝室へ向かい,またリビングに戻ると,彼女はまだ不機嫌そうだった。
目が合うと,食べていたポッキーから口を離して「何?」と訊いてくる。

…………ったく。

すぐ拗ねて,そんでもってその後がめんどくさいとこが,まだ子供の証拠だ。

――仕方ねぇなぁ。


「……え,」


俺は彼女の手を握り,食べかけだったポッキーをひとかじりした。

「風呂行く」

しばらく呆けていた彼女だが,俺が脱衣所のドアを開けた頃には我に返ったらしい。


「ちょ,待ってよ優木さん!」
「うるせえ俺は今から風呂に入るんだ」
「そんなこと言わずに開けてよ!ねぇ!」
「もう服脱いでんだよ!」
「ならあたしも脱ぐから!」
「意味わかんねーよ!」


ドア越しに叫びながら,やらなきゃよかったと凄い勢いで後悔した。

やたらと口の中が甘い。


もうしばらく,あの赤いパッケージは見たくないな。




よかったら拍手をどうぞ...



*次はあとがきです



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