短編

□our winter
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ゴーン,と除夜の鐘が鳴り響く。

「今年も,もう終わりだね」

しんみりと彼女は言う。
俺も「そうだな」と頷いた。
そして,甘酒を飲むために離していた手をどちらからともなく繋ぐ。
そこだけがやけに熱く感じる。

「すごく楽しかったよ」
「そらよかった」
「そこは『俺もだよって』微笑みかけるとこでしょ!?」
「……そいえばさ」

ずっと気になっていたことをやっとのことで言葉にする。

「お前,受験勉強しなくていいのか?」
「…………」
「こんな遅い時間に神社まで初詣に来ずに,家で勉強してたほうが良かったんじゃ――」
「いいの!」

手を繋ぐ力が強くなる。

「あたしが優木さんと一緒に年越したいって思ったから,今は勉強なんかどうでもいいの!」
「……そっか」
「そう!」

受験生とは思えない台詞だったが,――ともかく,無茶苦茶に嬉しかった。

「ねぇ,もうすぐだよ」

周りの声にあわせて,真奈もカウントを始めた。


5,4,3,2,1――


「「あけましておめでとうございます」」

「今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ」

そんな新年の挨拶の後,

「神頼みしに行くか」
「え?人が多いからそれはしないって言ってなかったっけ?」

彼女を引っ張るように人ごみへ向かう。

「そのつもりだったけど,」

ちらりと彼女の顔を見て,またすぐ前を見る。

「お前の合格祈願しなくちゃだろ」

繋いだ手の熱が愛しい。
何より大切にしたい。

「……ありがとう」
「あとで御守りも買ってやる」
「そこまでしてもらうからには絶対受からなくちゃね」
「全くだ」

「――絶対受かれよ」

俺の言葉に,彼女は力強く「うん」と応えた。

「受かるよ」

真っ直ぐなまなざし。

こうやって彼女は,少しずつ大人になるのだろう。
その成長過程を,俺は今年も見られるんだ。


「ねぇねぇ,優木さんはあたしの合格祈願にお賽銭いくら出してくれるの?」
「10円」
「安っ!!」
「お前にはそれで十分だろ」
「……うぅー」
「冗談だって。そのあとで一番高い御守り買ってやるから」
「もう優木さん大好きっ!」





よかったら拍手をどうぞ...



*次はあとがきです



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