短編
□rEd
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▽エイプリルフール企画 4/1
連なった音が急に途切れた。
「……もう弾くのやだ」
彼女はそう言って手を下ろし、深いため息を吐く。
「飽きたの」
もう何百回も僕がリクエストした曲。
それに、飽きたって。
「もう二度と弾かないから」
パタンと鍵盤の蓋をして、もう一度ため息。
深い、重いため息だった。
それからくるっとこちらを向いた。
「なーんて…………ね」
最後の一言がやけに遅れたのは、僕を見たからだろう。
両の目から静かに涙を流す僕を。
「えっ、ちょっ、やだ、そんな泣かなくても!」
椅子から降りて駆け寄ってくる。
あわてた様子だ。
涙はまだ止まらない。
だって君がもう弾かないって言った。
「嘘だよ、嘘!」
嘘?
「今日は4月1日――エイプリルフールなんだから!」
………………騙したのか。
「……何その目。だって今日はそういう日だもん」
泣いて損した。
僕は服の袖で目をこする。
「でもまさか、そんなことで泣くとはね……まだまだ子供ってことかな」
楽しそうに笑う。
少し年上だからって、なにかと子供扱いすんなっての。
隣の彼女を見た。
「大丈夫大丈夫、飽きるとかありえな
いから」
本当?と尋ねると、本当と返ってきた。
「少なくとも、君が飽きるまではね」
僕が飽きるとか、それこそあり得ないよなぁ、と思いながら、案外もう飽きてるかもよ、と嘘を吐いた。
よかったら拍手をどうぞ...★
*次はあとがきです
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