短編

□clash?
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その言葉はあまりに確信的で、やつの胸ぐらを掴み上げるのには十分なきっかけだった。
とは言っても同じぐらいの背なんだが。

「どういうつもりだ」
「あの子に教えてやろうと思ったんだよ」

……は?

「大人と付き合うっていうのがどういうことなのかって」

さらりと答えた中村の顔面をぶん殴ってやりたい気持ちを殺して、なるべくゆっくりと呼吸をする。
そう、ゆっくりと。
そうでもしないと、俺の方がどうにかなりそうだ。

「そんなことあいつが知る必要はない。だとしても、お前が教える理由もない」
「そうか?後者はともかく、前者は間違いなくあると思うけどな」
「ねぇよ」

えげつない性格。
子供にだって容赦しない。
だから中村には無駄も隙もない。

「お前があいつを余計なことで悩ます権利なんて、これっぽっちもねぇ」

ぐっとさらに掴む力を強くすると、「悪かったって」と仕方無さそうに両手を上げた。
まるで、降参みたいに。

「ちょっとからかってやろう、みたいな軽い気持ちだったんだって」
「あ゛ぁ?」

すごむと「言い方が悪かった」と苦笑した。

「あの子をそんなに悩ませるつもりはなかったって言いたかったんだ。悪かった」

自分の非を認めるのを極端に嫌がる男が2回も謝った。
軽い気持ちで言ったっていうのは気に食わないが、

「次余計なことしたら本気で殴るからな」

俺は手を離した。

「あーあ、皺になった」
「俺が知るか。彼女にでもアイロン掛けしてもらえ」

その言葉がこいつにとっての地雷だと知ってるから、吐き捨てるようにそう言ってやった。
でも、真奈には悪いが、この男がそんなことを言った気持ちも分からなくもない。

「まだ引きずってんのか」

ネクタイを直すフリで聞き流される。
……別にいいけど。

そうだ。

「お前、このあと暇か」
「ん?」
「そうか暇か」
「は?」
「なら今晩は俺んちで飯食ってけ」
「いきなり何だよ」

訳が分からない表情の中村を助手席に「いいから」と促し、自分は運転席に座る。

「おい、ちゃんとシートベルトしろよ。俺が捕まる」
「どういうつもりだ。今日はあの子と会うんだろ」
「だからだ」

キーを回して車のエンジンをかける。

「……また俺があの子にちょっかいを出すとも限らないってのにか?」

答えると、中村は渋い顔をして呟いた。
少しだけ自嘲気味に。

「俺は、昔お前に色々あったのを知ってる。――でも真奈は知らない。それに、直接お前に言われたのはあいつだ。俺だけに謝るのは間違ってる」


「だから直接会って謝れ」


中村はしばらく沈黙したのち、

「……分かった」

ため息混じりに頷いて、シートベルトに手をかけた。
かちっと音がしたのを聞いて俺は車を発進させた。

「お前ってほんと固いよな」
「そういう性分だからな」
「てか何であの子と付き合うことになったんだ?」
「はッ!?」
「前見て運転しろ」

てめぇが何の前置きもなくそんなふざけた質問するからだろーが。

「まぁ、おいおい聞かせてもらうかな」

方頬だけ上げた笑み。
……嫌な予感しねぇっての。





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