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□甘い菓子
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【Trick Trap】



置き手紙を見て俺は石になった。

『探さないでください』

独特の丸みを帯びた字。
確かにやつの字だ。

「……くそがッ!!」

俺はそれを持って盛大に悪態を付き,トイレへ直行した。
ノブを掴んで回しても,鍵はかかっていないはずなのに開かなかった。

「おいこら!ここにいるのは分かってんだぞ!」

しばらくノブをガチャガチャ鳴らしながら叫んでみたが,返事はない。

「いい加減にしろ!こんなとこにこもる暇あんなら原稿やれ!」

「書けないからこもってんでしょ!?」

やっと聞こえた返事は,情けないことこの上なかった。
……そうとうへこんでんな。
俺は,ドアノブを回すのをやめて,「良いから出てこい」となるべく優しく言う。
しかし彼女は頑なだった。

「やだ。無理。書けない」

どうしたもんか,と悩んでいると,


「いえーいっ!」


どんっ

「のわっ」

背中に衝撃を感じた。
なんだ?と振り向くと,俺の腰のあたりに腕を回してひっついている彼女がいた。

「……なんなんだよお前は」
「ん?」

無邪気な顔で俺を見つめてくる。
誰がみたって(もちろん俺だって)可愛いと思えるような笑顔で。

「……さっきからこの中から聞こえてた声は?」
「録音したのを流しっぱなしにしてただけだよ」
「…………ドアが開かない仕組みは?」
「それは内緒」

手札は残しておかなくちゃ。

ベストセラーの推理小説家は,とびきりの顔で俺にそう言った。

「で,原稿は?」
「もちろん上がってるよー」

じゃあ,何も問題ないな。

俺は彼女を引き剥がして,「ん?」と首を傾げた彼女の口を,かなり頭を下げて塞いだ。

「――お疲れ様」

触れるだけ,言ってしまえばじゃれあいのキスに,それでも彼女は満足げに微笑んだ。





―――――――――――――

可愛い女の人が推理小説書くってなんかいいよね。



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