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□甘い菓子
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▽12/10
【TAKE BUS】



単純に,綺麗だな,と思ってた。

目鼻立ちの整った顔。
長いまつげに縁取られた大きな瞳。
腰まである艶やかな黒髪。

毎朝同じバス停から乗るその人は,いつでもしゃんとした背筋で歩いてて,とても綺麗な人だった。
いや,綺麗なだけじゃない。
お年寄りに席を譲ったり,道に迷った人に案内をしたりと,周りに優しくできる人だ。


遠くから見てるだけで良かった。

目の保養……と言ったら失礼かもしれないけど,本当にそんな感じ。

毎朝,同じバスに乗れるだけでもう十分幸せだ。


なのに。


どうして今僕は,その人の隣に座っているんだろう。


時刻は夜8時。
こんな遅い時間のバスに乗るのは初めてだ。
――でもこの人は,いつもこの時間帯に帰るのかな。

そっと,隣に座っている人の顔を盗み見る。

よく眠ってる。
美人は寝顔も美人だ。

「…………ん」
「!!」

急にまぶたを開けたもんだから,窓側に座っている僕は勢い良くそっちを見るしかなった。
……何やってんだ,僕。

しばらくして,また彼女はうたた寝を再開した。

規則正しい寝息に心臓がドキドキする。
……駄目だ。
落ち着かない。
僕も寝ようそうしよう。
決意して目を閉じる。

――が。

バスが曲がった勢いのまま,彼女の体重がこちらに傾いた。

……まじかよ。
なんだこの体勢。

右肩にかかる重み。
服越しに伝わる温もり。

こんな体勢じゃ寝れる訳ないだろ……。


というわけで。
僕は残り停留所4つ分の時間を,生きた心地のしないまま過ごすことになったとさ。

「……なんだかなぁ」





―――――――――――――

名古屋市営バスは,そんなロマンスが起こる場所じゃありませんけどね(笑)



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