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□甘い菓子
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【アルビノ】
そして雨は止んだ。
彼女は瞼を持ち上げ前を見据え、決意したようにゆっくりと立ち上がる。
その瞳にもう迷いはない。
辺りはぬるい雨の匂いが充満していた。
「もう大丈夫」
彼は何も返さない。
おそらく、それが彼女自身にかけられた言葉だと分かっているから。
「ありがとうね」
「どういたしまして」
声に出して言うとめんどうなことになりそうなので、「何もしてないけど」という台詞は常套句にすり替えた。
我ながら無難な判断だと、彼は内心肩をすくめた。
「ほんとに大丈夫か?」
「うん」
赤い目が笑って、頼りない微笑みを作る。
――何が大丈夫だよ。
そんな弱々しい笑い方しやがって。
彼はため息を吐いた。
けれど、だから、彼女を誰よりも美しいと思った。
急に晴れてきた空を二人見上げる。
「怖い?」と彼が尋ねると、「少し」と小さな声で答えた。
彼女は続ける。
「でも、君と一緒なら平気」
すると彼はそっと彼女の濡れた前髪をわけ、額に優しくキスをした。
こちらこそありがとうとか、好きだよとか、そういうのが全部ひっくるまったキスだった。
「おいてかないでよ」
「そっちこそ、ちゃんとついて来いよ」
「うん。せーので、一緒にね」
「あぁ、一緒にな」
「「せーの」」
そして2人はフェンスから飛び降りた。
梅雨が明けた最初の日。
二羽のツバメが寄り添いながら飛んでいた。
どうしてか片方のは真っ白な身体をしていて、
目元の赤が際立って綺麗だった。
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夏の上昇気流に乗せて泳ぐ空。
よかったら拍手をどうぞ...★
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