Log

□甘い菓子
36ページ/48ページ


▽7/13
【アルビノ】



そして雨は止んだ。
彼女は瞼を持ち上げ前を見据え、決意したようにゆっくりと立ち上がる。
その瞳にもう迷いはない。
辺りはぬるい雨の匂いが充満していた。

「もう大丈夫」

彼は何も返さない。
おそらく、それが彼女自身にかけられた言葉だと分かっているから。

「ありがとうね」
「どういたしまして」

声に出して言うとめんどうなことになりそうなので、「何もしてないけど」という台詞は常套句にすり替えた。
我ながら無難な判断だと、彼は内心肩をすくめた。

「ほんとに大丈夫か?」
「うん」

赤い目が笑って、頼りない微笑みを作る。
――何が大丈夫だよ。
そんな弱々しい笑い方しやがって。
彼はため息を吐いた。
けれど、だから、彼女を誰よりも美しいと思った。

急に晴れてきた空を二人見上げる。
「怖い?」と彼が尋ねると、「少し」と小さな声で答えた。
彼女は続ける。

「でも、君と一緒なら平気」

すると彼はそっと彼女の濡れた前髪をわけ、額に優しくキスをした。
こちらこそありがとうとか、好きだよとか、そういうのが全部ひっくるまったキスだった。

「おいてかないでよ」
「そっちこそ、ちゃんとついて来いよ」
「うん。せーので、一緒にね」
「あぁ、一緒にな」

「「せーの」」

そして2人はフェンスから飛び降りた。





梅雨が明けた最初の日。
二羽のツバメが寄り添いながら飛んでいた。

どうしてか片方のは真っ白な身体をしていて、
目元の赤が際立って綺麗だった。





――――――――――――――

夏の上昇気流に乗せて泳ぐ空。



よかったら拍手をどうぞ...



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ