捧げ物
□like marries like
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「あなたと私は似てるわ」
君の言葉に,僕は不快感を抱かざるを得なかった。
「……何だって?」
「似てるって言ったのよ」
「誰が?」
「だから,あなたと私が」
面白い冗談だな,と吐き捨てると,彼女は「本心よ」と微笑んだ。
赤い口紅で彩られた唇が描く曲線が妖艶で,思わず見とれた。
「どこが似てるって言うんだ」
「こんなことでむきにならないでよ。子供じゃないんだから」
愉快そうに笑う声が鬱陶しい。
「理由は特にないわよ。なんとなく,そう思っただけ」
なんだそれ。
「不服そうね」
「別に」
つくづく不愉快な女だと思っただけだよ。
「まぁ,うん。あえて例をあげるとするなら――」
彼女は頼んでもいないのに話し始めた。
「キスやセックスは上手いくせに――恋愛は下手なところとか」
お互い少しだけ沈黙する。
確かに,と納得するのもしゃくだが,事実なのは違いない。
「……そう,だな」
でしょう?と得意げにこちらを見上げる彼女。
いつも自信満々で,高飛車で,傲慢で,けれど知的で。
どんな男でも虜にできるほどのルックスとプロポーションを持ち合わせた彼女だけれど。
唯一,本気の恋愛だけは下手くそだった。
かく言う僕だってそう。
「相手のこと,こんなにも好きなのに」
「あぁ」
「相手を肉体的に満足させる自信は有り余るくらいあるのに」
「うん」
「どうしてか,上手に恋愛できないのよね」
彼女は「不思議だわ」と遠くを見ながら呟いた。
僕は彼女の横顔を見つめる。
――確かに,僕らは似ているのだろう。
だからこうしてささいな縁で惹かれ合い,表面だけの深い関係を続けている。
お互い本命がいるくせに。
「……確信がないんだよ,きっと」
唐突に話し始めた僕に彼女は視線を向けた。
「好きな人を幸せにできる確信が,どこにもないんだ」
ゆっくりとまばたきをする。
僕の愛しいあの子は,今頃誰の腕に抱かれ,どんな夢を見て眠っているんだろう。
なんて手放しで思ってしまった。
「……身体じゃだめなの?」
「だめだろ,そりゃ」
「だったら,そんなの無理だわ」
子供のように首を振る。
そこが,僕と彼女の違い。
幸せにする確信がないから恋愛下手なのは似てたとしても。
本当は分かってるくせにしようとしない僕と,
本当に分かってなくてできない彼女じゃ,
絶対的に違う。
「あー,恋愛って難しいー」
枕に顔を埋めた彼女の髪をすいて,何となく訊いてみた。
「なら,試しに僕としてみない?」
「何を?」
「恋愛」
下手同士でさ,と笑いかけると,彼女も微笑み返してくれた。
色っぽい唇が動く。
「――――願い下げよ」
だよねぇ,と安堵の息。
「言ってから,OKされたらどうしようかと思った」
「大丈夫よ,それは有り得ないから」
だって,と僕らは声を揃えて笑った。
「あなたのこと」
「君のこと」
「「大嫌いだもん」」
なんだ。
似ているのは,一つだけじゃなかったのか。
よかったら拍手をどうぞ...★
*次はあとがきです
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