キリ番

□閉愛
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【閉愛】

ヤンデレ×ヤンデレ



絶え間なく響く騒音。
目の前の扉一枚を隔てて聞こえてくるそれに耳を澄ませながら,僕は眉をひそめるどころか頬をゆるめた。

そっと,扉に触れる。

指先から伝わる振動。
すごい力だ。
とても女の子とは思えない。
そもそも,あの棒のように細い腕のどこにこんな力が隠されていたんだろうか。

もしかしてあれかな。
火事場の馬鹿力ってやつかな。


「開けて!!」


耳をつんざく絶叫。
30分以上叫んでるせいでさすがに少し掠れてきたけど,まだまだ大丈夫そうだな。


「お願い!!出して!!」


まだそこにいるんでしょ,なんて,ずいぶん自信ありげに言うんだなぁ。
まぁ,事実いるんだけどさ。

彼女をこの部屋に閉じこめてからずっと,僕は扉の前にいる。
何かするわけでもなく,ただ,彼女の叫び声とか,扉を叩く音とかを聞いているだけ。

そうしてるうちに,扉を叩く音がまたいっそう激しさを増した。

「お願い!!出して!!」

さっきと同じ台詞だ。

「暗くて怖いよ!!」

だろうね。
電気,通ってないから。

「ねぇ聞こえてるんでしょ!?」


ひどく歪(いびつ)で耳障りな声は,まるで縋るようだった。


「返事してよぉっ!!」


「――なに?」

自分でも白々しいと思うほど飄々とした声で応えた。
刹那にして,扉を叩く音が止む。
悲鳴じみた叫び声もぱたりとしなくなった。

なんだよ,と彼女に言う。

「せっかく返事してやったんだ。用件があるならさっさとしてれないか」

「……い,」

蚊の泣くような声。
さっきまでの勢いはどこへやらってかんじだな。


「……おね……がい,」


出して,と切願する声は,確かに震えて湿っていた。
泣いているんだろうか。

僕だって人間だ。
そこまでされて何も思わない訳じゃない。

「……出して欲しい?」

「えっ,」

「出してあげようか?」

そっと,ポケットから鍵を取り出す。
この部屋の扉を開けるための唯一無二の鍵だ。


「質問に答えたら出してあげる」


突然な僕の条件の提示に,彼女は面白いくらい食いついた。

「こたえるっ,ぜったいこたえる!こたえるからだしてっ!」

僕は方頬を緩めた。

「じゃあ訊くけど,」


「まだ,僕のこと好き?」


「ただ他の男に話しかけられただけでこんなに酷いことされて,それでもまだ,」



僕のこと,好き?


「……………………………き,」

消えそうな声で繰り返す。


「好きだよ,好き,好き。大好き」

「例え些細なことで酷いことされたって,」

「ずっとずっとあなたを愛してる」


僕は,その答えを聞いて,「そう」と短く答えた。

「ね,答えたよ。だから出して――」

「気が変わった」

え,と息を飲む気配がした。
予想外な僕の返事に,彼女は戸惑っているらしい。

「出してやんない」

そして僕は右手に持った鍵を目線と同じくらいの高さに持ってきて,

迷わず,飲んだ。

――ごくり。

ごちそうさま。


「…………………なんで,出してくれないの?」

「僕,マゾヒストって嫌いなんだ」


それだけ言って,僕は扉に背を向けて歩き出した。


――僕が好きなら,そこで死ね。





よかったら拍手をどうぞ...



*次はあとがきです



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