メモリー
□出会いは偶然
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〜〜数年前〜〜
散らかっている部屋を眺めている
このマンションに引っ越して1日
部屋の真ん中でお母さんはダンボールからものを出し片付けている
ずっと悲しそうな顔をしている
ときには涙を流している
理由なんて、小さい私にだってわかっている
その空間に居ずらくなった私は、外に出る
眩しい日差しが照らす
特に行くところも無いので、公園まで行ってみる
公園の入り口に来るとたくさんの声に混ざって、ボールの跳ねる音が聞こえる
ポーン、ポーン、と規則正しく跳ねる音
気になった私は、音のする方へと足を進めた
公園ではたくさんの子どもたちが遊んでいる
砂遊び、おままごと、サッカー、ブランコ・ ・ ・
そんなことには目もくれず音のする方へと行く
奥のほうへ行くと一人、サッカーボールを蹴ってリフティングをしている男の子がいた
たぶん、同じくらいの年の子だと思う
私は木の陰に隠れてそれを見る
規則正しく蹴り上げられるボールは磁石のように彼の足を離れずに跳ねている
「・ ・ ・すごいなぁ・ ・ ・」
一人、木の陰でつぶやく
すると、急にリフティングを止めてボールを地面に落とす男の子
「・ ・ ・おい、そこのヤツ」
下を向き、そう言っている男の子
もしかして気づかれた・ ・ ・?
「そこの木の陰に隠れてるお前だ」
やっぱり、私か・ ・ ・
木の陰から出て行くと、男の子は「はぁ」とタメ息をつく
「・ ・ ・お前、何してた?」
こっちを睨んでそう言う
「えっと・ ・ ・、その・ ・ ・、上手いな、と思って・ ・ ・」
視線が鋭く、彼の方を見れなくなりうつむく
「そりゃ、これで人を見返そうと思ってんからな」
その言葉に顔を上げる
彼はボールを手に取り、それを見つめている
「サッカー・ ・ ・好きなの?」
「・ ・ ・まあな」
そのとき彼の鋭い目つきが一瞬、変わったような気がした
でも、また鋭い目つきに戻る
「ねぇ、サッカーって楽しい?」
「どーだろうね」
「なにそれ」
そういってクスッ、と笑う
「やってみりゃ、わかるんじゃねえか?」
そう言ってボールをこっちに投げた
そのボールは私の足元に転がってくる
「え、でも・ ・ ・やったことないよ?」
「蹴るぐらい誰だってできんだろ」
そのボールを蹴り返してみる
だけどボールはまったく違う方向に飛んでいった
「・ ・ ・下手すぎだろ」
「・ ・ ・じゃあさ、サッカー教えて?」
冗談半分で言ったつもりだった
だけど、
「オレが教えても上手くなるかどうか心配だな」
くくく、と笑う彼
え?、と驚いたような顔をしていると
「んだよ、その顔。教えてほしくねえのか?」
「いやぁ・ ・ ・ホントに教えてくれるとは思ってなかった」
「じゃあ、教えなくていいんだな」
「いやいやいや!!教えて!!」
そんな私を見てまた笑う彼
よく笑うんだなぁ、彼
あ、そういえば
「ねぇ、自己紹介がまだだったよね? 私は福田 志」
「オレは不動明王」
不動くんかぁ
「よろしくね、不動くん」
「あぁ、」
その日はリフティングを教えてもらった
2人で笑いながらやっていると、すぐに時間は過ぎていった
ひさしぶりに笑顔でいられた気がした
辺りを見るとすでに日は落ちかけていた
「あ、そろそろ帰らないと・ ・ ・」
「・ ・ ・だな、帰るか」
不動くんは足元のボールを蹴り上げて腕の中に収めた
「じゃあね!」
「あぁ、またな」
そう言って2人は公園で別れた
公園を出た時は楽しかったので足取りは軽かった
だけど、家に近づくにつれて足取りは重くなっていく
「・ ・ ・ヤダな・ ・ ・」
それでも帰る場所はあそこしかないのだから・ ・ ・
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