●○短篇○●
□繋
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※このお話は「ツナグ」という映画のパロディーになっております※
身を引き裂かれるような別れから3年。
やっと日常生活を普通に送れるようになってきた。
それでも、彼を想うと、涙が止まらなくなって、
胸が締め付けられるように苦しくて、
喉が詰まるような感覚に上手く呼吸が出来なくなる。
お別れの言葉など言えなかった。
ただただ、愛しいひとの名前を叫んで、必死に手を伸ばした。
”さいならや”
真っ白な光の海に飲み込まれながら聞いた彼の最期の言葉は、
そんな寂しいものだった。
現代に戻った私も翔太くんも。
最初の数週間は、幕末で過ごした記憶がなかった。
けれど、ほぼ毎日見る夢に出てくる、時代劇のような景色と着物姿の人。
誰に教わったわけでもないのに、着物を一人で着ることが出来ること。
その不思議な体験を翔太くんに話すと、彼も同じような事があると言う。
それから、日々起こる不思議な感覚を互いに話し合ううちに、
彼らと過ごしてきた記憶が、徐々に鮮明に蘇ってきた。
――――
翔太くんから話したいことがあるとからと、
ランチタイムが過ぎ、客足もまばらになった頃の近所のオープンカフェで待ち合わせる事に。
「……お、○○!こっちこっち」
先に来ていた翔太くんは、私を見つけると席から立ち上がって、爽やかな笑顔でこちらに手を振る。
私もそれに笑顔で手を振り、駆け寄る。
仕事の合間を抜け出してきたのだろうか、
特に荷物を持つこともなく、ワイシャツ、ネクタイ姿で、
襟元のボタンを外し、ネクタイを緩めた彼の姿に、”働く男”を感じて少しどきっとしてしまう。
その動揺がバレないように、オーダーを取りに来た店員さんに、
彼と同じアイスコーヒーを頼んでから、早速話を聞いてみる。
「……で、話ってなに?」
「ああ……」
口籠る翔太くんに、あまり良い話ではないのかと身構えてしまう。
「……どうしたの?」
「うん……」
「なあに?何か言い辛いこと?」
「いや、あのさ……○○……」
「うん」
「…………古高さんに、もう一度逢いたいって思ったことあるか?」
「えっ……」
どうして翔太くんが急にそんなことを言い出すのかわからなかったけれど。
”古高”その名前を聞いただけで、喉が詰まって胸が締め付けられる感覚に襲われる。
「……どう、して?」
「亡くなった人に、一度だけ会わせてくれる人がいるらしいんだ」
「……イタコさん、みたいなこと?」
「それともまた違うみたいなんだけど……
本人がその場にいて、直接会話することも、触れることも出来るって……」
「……会話も、触れることも出来る……」
「いや、俺も半信半疑なんだけどさ。友達が実際に亡くなった人に会ってきたって言うんだ。
そいつさ、就職が決まったら結婚しようって言ってた彼女を不慮の事故で亡くしてるんだ。
突然の別れで、ちゃんと最期の言葉も交せなかったのが心残りだったみたいでさ。
いつも明るくて元気なあいつが魂抜けたみたいになっちゃって。
それが、その亡くなった彼女にもう一度会って来てから、元に戻ったっていうかさ。
ちゃんと心の整理が出来て、やっと前に進めそうだって言ってたんだ……」
「…………」
「……俺、いつも思うんだ。
古高さんのこと思い出して話してる時のお前。
顔は笑ってるけど、その笑顔がすごく辛そうに見える。
彼女を亡くしたばかりの頃のあいつも同じ顔してた。
だからさ、もう一度古高さんに逢って話してみるのもいいんじゃないかなって……思ったんだけど……」
「…………」
「……最期の時も、俺が無理矢理引き剥がしてきたみたいになっちゃったし、
俺にも少し責任があるっていうか……
あの人を助けるなんて大口叩いといて結局……」
「それは違う!」
慌てて彼の自責の言葉を遮った。
「……翔太くんは何も悪くないよ」
本当にそう思ってる。
翔太くんはいつも私のことをすごく大切に思ってくれてるって分かってる。
あの時だって、私のことを思っての行動だって分かってる。
だけど、翔太くんは苦笑いをするだけだった。
「……これ、逢わせてくれるって人の名刺」
そう言って、翔太くんはテーブルの上に一枚の名刺を差し出した。
名字だろうか・・・・
「橘」という一文字と、電話番号が書かれただけのシンプルすぎる名刺。
「気が向いたら、かけてみるといいよ。話し聞くだけでもさ」
「……うん……考えてみる」
「……うん。なんか…ごめん」
「ううん、そんなことない。ありがとう……」
「……それじゃあ、俺、そろそろ仕事に戻んないと」
そう言うと、翔太くんはテーブルの上の伝票をさりげなく取って。
苦笑いだけを残し、カフェを出て行った。
翔太くんが置いていった名刺を手に取ってみる。
・・・・・俊太郎さまに、もう一度逢える・・・・・・?
カメラひとつで幕末にタムスリップしてしまうなんて、信じがたいことを実際に体験してきた私にとって、
今なら、そんなことも現実にあるのかもしれないと思える。
だから私は、亡くなった人に逢えるということを信じるか信じないかよりも、
俊太郎さまに逢うかどうかということを悩んでいた。
あなたは、俊太郎さまにもう一度・・・・・・
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――続