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□甘い菓子
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【柔らかな朝と君】
優しく甘くの2人
「ねぇ,起きて」
優しく揺り動かすと,彼女は悩ましげに形のいい眉をひそめた。
「……あと少しぃ」
いつもきっちりとした彼女から,語尾が間延びした甘えた声が出るなんて。
――それくらい眠いってことか。
まぁ,しょうがないよなぁ。
普段も遅いときはほんとに遅いけど,昨日は特に遅かった。
帰ってきたの,日付が変わる直前だったし。
なんて思っているうちに,また静かに寝息を立て始めてしまった。
僕は,「仕方ないなぁ」と苦笑いをこぼし,
遠慮容赦なくかけ布団を強引に奪った。
「え,ちょっ!てか寒い!」
「なら今日中に厚手のパジャマ出しとくよ」
「それは嬉しいけど,今年こそ新しいのを買いに――じゃなくて!」
「いいけど,休みが合うかなぁ――で,何?」
布団返して,と右手をつきだしてきた彼女に,僕は所望のそれではなく目覚まし時計を手渡した。
その数字を読み取った彼女の目が,見る見るうちに丸くなり,
「いやあああああああああああ!!!」
狭い寝室に阿鼻叫喚を響かせるだけ響かせて,追われるように出て行った。
「……やれやれ」
あえてゆっくりと後を追うと,凄まじい形相――ではなく,泣きそうな目で睨まれた。
それはそれで,迫力があるけど。
「どうしてもっと早く起こしてくれなかったのよ!!」
「………………その台詞,絶対確信的だと思ってた」
彼女の必死な様子を見る限り,そうでもなかったらしい。
めっちゃ素で言ってるもん。
「絶対間に合わない……絶対遅刻だ……あぁ,見えるわ,死亡フラグが……もはやそれしか見えないけど……あは」
ぶつぶつ呟いて,最後には笑い出してしまった。
確かに,過去最大級の寝坊だ。
「とにかく落ち着きなって。あと,トーストかじるか服着替えるかどっちかにしてくれ」
「……ん」
そして,大人しく椅子に座った。
「って,その格好で食べるの!?」
「だめ?」
「いや……いいけど……」
せめてスカートぐらいは穿いて欲しかった。
そんなあられもない格好でトーストをほおばる彼女。
もう諦めたのか,口を動かすのもゆっくりだ。
の割に,涙目だけど。
「もう……やだ……」
そんな濡れた声を聞かされちゃ――
「分かったよ」
「?」
不思議そうな顔で僕を見上げる。
「車で仕事場まで送ってってあげるから」
「ほ,ほんと!?」
あぁ,と根負けしたような返事をする。
「そうすれば,メイクは車の中でできるし,交通機関使うよりいくらか早く着くだろ?」
僕の方が確実に遅刻になるけどね,とまでは言わない。
同僚に一本連絡入れとけば大丈夫だろうし。
「ありがとーっ!」
「どういたしまして」
抱きついてきた彼女を抱きしめ返して思う。
僕って本当に,――彼女にだけは甘いよなぁ。
「あの……」
「何?」
「そろそろ離れてくれないと……」
「ん,そうね。遅刻しちゃうわね」
「いや……まぁ,それもあるけど……」
とりあえずスカート穿いてくれ。
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朝からいやらしいですわね!
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